伽羅創記

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<<   作成日時 : 2006/10/24 10:59   >>

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 きのう、イーストハーレムを歩いた。今書いている物のため、地理的に調べたいことがあったので行った。曇り空でうすら寒い日曜の午後、ラガーディア空港発M60のバスにアストリアから乗り、イーストリヴァーを渡って、125丁目と2ndアヴェニューの角で降りた。
 メトロノースの高架線が走るパークアヴェニューを北へ向かってぶらついた。125丁目から離れるつれ、荒れた無人の建物が目につく。暢気そうに歩いている人もちらほらいたが、どことなく物騒な雰囲気があった。夜はいうまでもなく、昼間でもあまりいい心地はしないエリアだと思った。

 イーストハーレムには、NYへ来たばかりの頃、テレビ番組の撮影の仕事で一度だけ行った。あれもやはり、高架線の走るパークアヴェニュー沿いだったはずだ。あの時は、春うららかな日和だった。
 ヒスパニック系の男連がデリの前で、オンボロのラジカセから流れるサルサミュージックを聞いていた。一人、70歳ぐらいの爺ちゃん(恐らくカリブ系黒人)が音楽に合わせてステップを踏んでいた。いい光景だったので、撮影したいと思った。
「このあたりは、カメラ向けると怒る人が多いんだよなぁ」
 カメラマンが言った。
「え、どうして?」
「あんまり、公けに顔を出されたくない人が多いってことだろうね」
「あ、そうかぁ」
 言われれば納得できた。そういう人たちが住むような“いかにも”の街並みだった。
「でも、女性が頼めば大丈夫かも知れないよ。頼んでみる?」
 私は車から降りてデリへ歩いて行った。
「あの、撮影させてもらっていいですか。さっき見てたけど、ダンス、すごく上手かったから」
 サルサを踊っていた爺ちゃんは、きょとんとした顔を向けた。白目が黄色く濁っていた。酒の飲みすぎで肝臓にきているような感じだった。
「どこの局だい?」
「日本のテレビなんです」
「日本?へぇ。だけど、どうしてこんな汚いところを撮影するのさ。もっと綺麗なところ、いっぱいあるじゃないか」
「関係ないですよ。あなたのダンスを撮りたいんです。さっ、レッツゴー!」
 そう言って私は爺ちゃんの腕を強引に組み、カメラの前に連れて行った。
「よう、いいじゃないか。この爺さんはニューヨークのベストダンサーだぜ!」
 一見胡散臭そうな回りの男連が囃した。爺ちゃんはにやにやしながら、アップテンポの音楽にあわせてステップを踏み出した。みんな手拍子をして、私も「イェーイ、イェーイ!」とノー天気な合の手を入れて騒いだ。
 どれくらい踊ってくれただろう、5分もしただろうか。曲が終り、爺ちゃんは息を切らせて照れ笑いをした。
「そのテレビ、俺も見れるかい?」
「いやぁ、残念だけど、日本でだけなの」
「ああそう」
 汗に混じって、アルコールの匂いがした。
「本当にありがとう。カッコいいダンス、日本で有名になりますよ!」
 回りの男連にワハワハと囃され、爺ちゃんは鼻に皺を寄せて笑っていた。
 後で撮影したテープを見たら、案の定、すごくよく映っていた。爺ちゃんの渋く陽気なダンスを、まわりの胡散臭さが最大限に引き立ているのだ!こういうのを見て、人は「ああ、ニューヨークだ〜」と思うんだろうな、なんて自讃してしまった。あれから10年近くになるが、あの爺ちゃん、達者でいるだろうか。

 イーストハーレムが、いつもあんなに楽しく都合よくワハワハいくなんて思ってるわけがない。実際、きのう見たものは壁面の崩れた建物、焼け焦げの残る空き地、ひび割れた道にたむろする若い黒人の男達、そのまわりを取り巻く、赤ん坊を連れたどう見てもティーンエイジャーの女の子。ニューヨークに腐るほどいるはずの日本人の私は、「こんなとこにいるオマエは誰だ?」という奇異な視線を飛ばされた。「ハーイ、元気ぃ?」などと、軽いノリで挨拶をしたくなるような雰囲気じゃなかった。イーストハーレムには、見捨てられた荒廃が残っている。もう充分だった。だから一番マトモな5thアヴェニューに出て、125丁目へ足速に戻って行った。125丁目まで来ると、今までの荒廃ぶりがうそのように、雰囲気がいきなり変わる。通りをたった5、6本しか隔てていないのに、だ。
 ジュリアーニ前市長のクリーン化政策(?)の成果なのか、ハーレム125丁目はすっかり小奇麗になった。ミッドタウンのものより気の利いたと思えるほどお洒落な雑貨店のカフェで、四人組のバンドが演奏していた。三人は黒人、サックスは日本人(多分)の若い男だった。ヒット曲をクールに演奏していた。ガラス張りの明るい店内、よく磨かれた床、すべてが爽やかでこざっぱりしていた。African Herb Teaなるものを飲みながら、私はほんの10分前まで自分がいたリアリティから、もううすぼんやりと離れていた。

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