伽羅創記

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zoom RSS 辻 邦生のいないパリ

<<   作成日時 : 2009/09/24 13:03   >>

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  8月真ん中の日曜日、パリへ行った。1993年以来のはずだ。オルセー美術館の印象派の絵の多くは、年月を経て発色が落ちていた。
 素晴らしく天気のよい日で、ニューヨークと違い冷房のない地下鉄は、がまんできる程度に暑かった。4番線のオデオン駅から中世美術館、ソルボンヌ大を通りすぎ、パンテオンの白い大きなドームが正面に見えた。どんな歴史を持つ建物か知らない。敬愛する作家がある時は足早に、ある時はうつむいて歩いたであろう石畳のゆるい坂を、私はただ東へ向かっていた。

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 聖エティエンヌ・デュ・モンという名の教会で、道が分かれていた。
「10年が過ぎてしまった」
 屋根のガルグイユが言った。
「誰もいやしない」
「いいんだよ。ただ、気が済めば」
 私はガルグイユの示す方へ向かった。








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 15年前、ベルリンにいた時に氏からもらった葉書の住所は、デカルト通りとなっていた。住んでいた建物には、記念プレートが掲げられていた。(写真トップ) このあたりも、きっと様変わりしているだろう。通りに面した店に客はまばらだった。ヨーロッパ特有の硬質で明度の高い光が、眠たげな午後にくっきりと影を染めていた。





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 デカルト通りから道が一本交差して、ムフタール通りに変わる。氏は庶民的な活気のあるこの界隈が好きだったようだ。食料品店の間に、本屋や郵便局もあった。もらった葉書は、この郵便局から出されたのだろうか。むしょうに氏に会いたくなった。
「気は済んだのか?」
 私は口をへの字に曲げて、そっぽを向いた。
 ムフタール街の坂は、終わりに近づいていた。
「今日は日曜日で、私は辻 邦生のいないパリにいて、私は日曜日に生まれたんだ」
 ガルグイユの含み笑いが見えた。

                          (2009年 辻 邦生記)




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コメント(9件)

内 容 ニックネーム/日時
羨ましいですなー。
私もいつか行きたいと思ってましたが、先に行かれちゃいましたねー。
辻氏の日記やエッセーによく出てくるムフタール街から
デカルト街、ソルボンヌそしてノートルダムを眺めながらセーヌ川のケーを思索を巡らせながら散歩した、というのは何回読んだかわからない、私の頭の中だけのパリです。
こうして話には聞いていた辻邦生のプレートが見れてすごくうれしいです。
やっぱり持つべきは辻邦生好きのマイミクということでしょうか?
デカルト街の辻氏のプレートの隣にあるヴェルレーヌのプレートもみましたか?
しー
2009/09/24 20:43
しーさん、こんばんは。
今回はこのために、ブリュッセルからパリへ日帰りで行ってきました。次回は1週間は滞在したいですね。
ヴェルレーヌのプレート、ありましたよ。大好きだったパリに敬意を表されて、辻先生も喜んでおられるでしょう。
カラビ
2009/09/25 02:13
カラビさんこんにちは、巴里に行けただけでもよかったじゃない。私は数回ベルリンからバスで巴里まで行ったけど10年以上の前の話で、私はierr et Gillesのモデルをしたい為にカラビさんが英語で宛てに手紙を書いてくれ、私は巴里のその展示会場にいったら、もう終了後で抜け殻とても残念だった記憶があるわ、で、彼らの写真展がはじめてべルリンであり、さっとく行ってきたわ、もう最高、ゲイの世界でした。
MASU
2009/09/25 16:23
辻氏の誕生日が9月24日だという事を初めて知りました。
だから「くにお」にしたそうです

いつかパリに行く機会があれば、プレートを拝見したいと
思います。これもまた初めて知りました
冷おろし
2009/09/26 00:25
>MASUちゃん
Pierr et Gillesに手紙?そんなことあったのかぁ。最近の作品は見てないから、今度調べてみよっと。
夏の巴里、シャンゼリゼは人でごったがえしてましたよ。

>冷おろしさん
>だから「くにお」
私もそれは近年になって知りました。
冬のパリしか知らなかったので、今回は新鮮でした。冬のパリもわりと好きです。
カラビ
2009/09/26 09:07
娘が昨年半年パリで学生生活を送っている時には思い出すこともなかった、昔を思い出しました。 遠い昔、パリに行った時セーヌ川ほとりで画家の卵にハントされ、友達と二人でこの画家卵の引っ越しを手伝ったんです。モンマルトンの丘の裏手だったような記憶が蘇って来ました。引っ越しを手伝ったお礼に一晩中、カルチェラタンで飲み明かした若かりし頃を思い出すとは・・・このサイトに出会うことがなければ、多分ずーと思い出すこともなかったでしょう。感謝!
フミエット
2009/10/05 11:53
フミエットさん、こんばんは。
パリの思い出、いい話じゃないですか!
ヘミングウェイだったかな、
「若い時、パリで過ごしたことのある人は幸いである。なぜならパリは、移動祝日祭のように、あなたの人生についてまわるから」
というようなことを言ってました。きっとそれですね。
カラビ
2009/10/06 00:56
こんにちは。
パリに行ったのですね。いいですね。
私も、7回行きましたよ。もう私がガイドをできるくらいですが、車椅子では無理ですね。でも、もう8年も行ってないので、また近いうちに行きたいと思います。
pikaso
2009/10/21 00:31
pikasoさん、こんにちは。
えっ、パリに7回も!すごいです。本当にパリがお好きなのですね。
あの街はやはり独特の雰囲気がありますね。昔から多くの人を魅了してきたのがわかります。私も長期で滞在してみたいです。
カラビ
2009/10/21 01:43

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