伽羅創記

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zoom RSS 自分というもののミステリー

<<   作成日時 : 2011/03/01 12:57   >>

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  才能があって、まわりの信望を集め、華々しいキャリアを歩んでいる人がいて、その人の身におこった思いもよらぬ悲劇を耳にした時、どんなにつらいだろうと痛ましく感じる同じ心の中で、なんでもそうそう上手く行かないものなのだなぁ、などという思いや、また、日本人お得意の自己憐憫身の上話を延々聞かされるんだろうか、などと考えている自分自身があることに唖然とした。
 私はなんという非人間的なヤツなんだ。しかし痛ましく感じた気持ちはウソなのかと言えばそれは本当であり、やはり私はひとのことを悲しんでいるじゃないか、おいおい、非人間的な思いが浮かんだのも事実だぞ、それじゃ私は非人間的だ、いや、一体どっちが私なのだ、と二極間を行ったり来たりしばらく悶々としていた。結局わかったのは、どっちも私なのだということだ。

 私は人間的。私は非人間的。私はやさしい。私は冷酷。私は心が豊か。私は心がさもしい。私は謙虚だ。私は傲慢だ。私は自信がある。私は不安。私は感動する。私は冷笑する。

 これはみんな私、これが私なのだ。そう認めた途端、悲劇に打ちひしがれた人を元気づけてあげたいと心から思った。

 
 小泉八雲の「停車場にて」という随筆を思い出した。熊本のある駅へ凶悪犯が護送されて来た時の話である。犯人の男は巡査を殺して逃亡していた。町の人たちは男を見るため、停車場に押し寄せていた。殺された巡査は人々から好かれていたので、八雲はリンチまがいの暴力沙汰になるのではないかと懸念していた。
 犯人が現れ、刑事が群集の中から殺された巡査の妻を呼ぶ。幼い子供を背負った巡査の妻が出て来ると、刑事は子供に向かって、父親を殺した犯人の顔をよく見るように言う。子供は泣きながら男の顔をじっと見つめる。男は地べたに崩れ、嗚咽を放った。以下、本文から

*** *** 
「御免なあ、御免なあ、坊や、許してくれ。俺がやっちまったのは ― 憎くてしたことじゃない。ただもうおっかなくて、おっかなくて、逃げたい一心でやっちまった。悪かった、本当に俺は悪かった。何とも言えねえほどの悪い事を坊やにしちまった。だがいまはその罪滅ぼしに俺は死にます。俺は死にたい、俺は喜んで死にます。だからな、坊や、どうぞ堪忍しておくれ、俺を許しておくれ」
 子供はまだ黙ったまま泣いていた。刑事は地べたでわなないている罪人をひき起した。静まりかえった群衆は二人を通すために道をあけた。すると、その時突然、その場に集まっていた人々の間からいっせいに啜り泣きが洩れはじめた。そして私は、日に焼けて赤銅色の刑事が私の前を通った時、私がかつて見たこともないもの、世間の人がおよそ見かけることのないもの、そしておそらく私が生涯に二度と見かけることのないであろうものを見た ― 日本の巡査が目に涙を浮かべているのを見たのである。

 潮が引くように人々は去ったが、私はその場に居残って、今日のこの光景の驚きにみちた教訓について深く思いをめぐらさずにはいられなかった。そこには毫(ごう)も容赦仮借はしないけれども、しかも慈悲と慈愛に満ちた正義の裁きがあった ― それは犯人に自分が犯した罪の深さを、その罪が生んだもっとも単純明白な結果 ― いたいけな遺児を示すことによって、はっきりと悟らせたのである。またそこには絶望にひとしい悔恨があった。それは自分が死ぬ前にただただ罪の赦しのみを乞う悔恨の念であった。そしてまたそこには熊本の庶民がいた ― いったん怒りを発すればおそらくこの日本帝国中でいちばん恐ろしいにちがいないこの土地の人たち ― その人たちはすべてを了解し、すべてに感動し、罪人が悔悟し自らを恥じたことを良しとして、激昂や憤怒によってではなく、その罪の大いなる悲しみによって、自分たちもまた心が一杯になったのである ― 儘ならぬこの人生の難しさ、人間の弱さ、そうしたことについてこの町の人々は、単純素朴な、だが深い体験を通して、しみじみと身にしみて会得するところがあったのである。 (「日本の心」平河祏弘訳)
*** *** 

 人間は悪いことをしながら良いことをし、良いことをしながら知らず知らず悪い事をする、という台詞があった。夜明けに拾った捨て猫が死んだとボロボロ涙をこぼしていた人間が、その夜に人殺しをしたりする。人間は哀しくていとおしい。



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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
偶然ではなとおもうけど、カラビさんが書いているような事思っていたのよ不思議ね、人間はいつも紙一重、、私の中にもいろいろな面をもっているわ、
結局は許して、すぐ忘れてしまうのだけど、一瞬たりともその人々を心のなかで攻撃してしまうわ、反面、周りから嫌われている人の話相手になってあげたりもして、
Masu
2011/03/02 06:23
Masuちゃん、こんにちは。
PCの調子が悪く、お返事遅れ申し訳ないです。
人間心理の深さ、いつも思い知らされますね。
カラビ
2011/03/04 09:46

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