伽羅創記

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zoom RSS 西ノ島にて 〈其のニ〉

<<   作成日時 : 2012/04/23 14:02   >>

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  浦郷の船着場前にある岸本旅館で、日本海の美味しい魚料理をご馳走になりながら、ご主人の岸本さんから島のことをいろいろ聞いた。
「明日は遊覧船に乗れるでしょうか」
「どうですかね。国賀海岸は西北の風が吹くとダメなんですよ。南東の風なら、多少強くても大丈夫なんですけどね」
「悔しいなぁ。明暗(あけくれ)の岩屋には、どうしても行きたいんですけどね」
「ちょっと難しいかな。日本海は三角波いうて、とがってて荒いんですよ」
「そうですか。よそ者の無知で、日本海を甘く見てました」
「6月が一番海が凪ぐ時期です。その頃なら、(明暗の岩屋に)行ける確率は高いです」
 こういう話は地元の人に聞かないとわからない。

画像 翌日、船着場から出る観光バスに乗った。乗客は私一人、チャーターみたいで贅沢な気分だった。コースは赤尾展望台から、国賀海岸か摩天崖のどちらかを選んでよかった。
 山の尾根みたいな道をゆっくり走り、まずは国賀海岸も摩天崖も見晴らせる赤尾展望台に着く。黒牛の放牧された草地の向こうに摩天崖、国賀海岸も見えた。火山岩でできた島のためか海岸線に砂浜らしきものはなく、岩場ばかりだった。彼方に出雲の方角を探したが、空に淡くにじむ水平線に島影は陽炎ほども見えなかった。


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 赤尾展望台の後は、国賀海岸へ行ってもらうことにした。駐車場から坂を下りて海岸に出た。ごつごつした岩が重なり合う入り江に、小さな鳥居と社が建てられていた。水は澄んでとても綺麗だった。どこかで見たことあるなぁ、この海...そうだ、ギリシャだよ!昔々、エーゲ海のセリフォスという島へ行った。これとよく似た岩場の海岸があって、海もこんな風に透きとおって碧(みどり)がかった色だった。この瞬間、私はメタフィジカルなレベルではトポス(場所)は距離ではなく時空でつながっているのだと理解した。うまく説明できないのだけれど、これはかなりのインスピレーションだった。



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 国賀海岸の見所、ろうそく岩と通天橋。ろうそく岩は、尖った岩の先に太陽がかかると、ちょうどろうそくに火を灯したように見えるところからそう呼ばれているそうだ。海に半身浸ったまま化石になった古代生物のような通天橋といい、この奇怪な風景はやはりエーゲ海で見たものとよく似ている。神話が生まれるところには共通の圧倒的な自然現象がある。


画像 観光バスツアーを終え、午後のフェリーに乗るため別府港へ戻った。時間があったので、黒木御所跡の方へ海沿いの道を歩いた。この道は「クロキヅタ通り」と名づけられている。クロキヅタとは紅海と西ノ島にだけ生息する海藻で、天然記念物になっている。ここは遠いアラビアの海とも時空でつながっているのか...
 御所の丘陵に面した海岸で、子供たちがアメフラシを捕まえたと騒いでいた。船着場のさらに向こうに見えるこんもりとした小島は「見つけ島」といい、後醍醐天皇を見張っていたところだという。
 
  花の名に 遠流の帝 しのばるる
          都忘れの 小さき紫

 御所の庭にあったこの和歌は、一年半で隠岐を脱出し見事都に返り咲いた後醍醐天皇より、隣の中ノ島で配流十八年の末に崩御した、歌人でも名高い後鳥羽上皇に重った。


画像 フェリー出航の前、観光協会へ行ってニコラさんに別れを告げた。
「また出なおして来ますよ。西ノ島、いいところですね。気に入った〜!」
「是非また来て下さい。必要な情報があったら、いつでも連絡してね」
 観光協会で熱心に仕事をしているニコラさん、聞けば松江にいた時に知り合った西ノ島出身の人とのロマンスでここに移住してきたそう。ニュージーランドも島国だからね、と明るく笑っていた。
Thank you, Nicola. See you again!!


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 出航の汽笛を聞いた。ゆっくりと船が海に漕ぎ出してゆく。デッキには誰もいなかった。潮の匂いのする風に吹き上げられふと下をのぞくと... 隠岐まで来てまたゲゲゲかい。しかもこんなデカデカと。センス悪いよ〜






 明日荒れるなんてウソみたいにいい天気だった。入り江は静かに離れてゆき、やがて碧の帯になった。
「島のもんは不便がって、本土へ行ってしまうのが多いです。もう畑やってるうちもこのへんじゃなくなったし。子供は海で泳ぐよりプールに行きたがります」
 旅館の岸本さんが、おだやかな諦観の表情で言っていたのを思い出した。島が寂れてしまうとしたら哀しいことだ、昔ながらの隠岐でいて欲しい、なんてこと、私は言えない。よそ者の無責任さだからというのもあるが、それ以上に、不便なんていう切羽つまった理由ではなく、「こんなとこ面白くない」という20代の言い草で日本を出て、以来、ずっと外国に住みつづけている私に言う資格はない。旅行者としてまた訪れ、いいところですねと賛辞を述べる、それだけが好意の表現だ。
 流刑の帝(後醍醐天皇が西ノ島にいたという事実証明はされていない)、焼火山の神火、烏賊をよぶ大漁の女神、白兎と八千矛、神々と貴人にまつわる伝説がどう生まれたのかということより、それを語り継ぐ人々の見つめてきたものを、私は問うてみたかった。どこへ行っても白いやぶ椿が咲き鶯が鳴いていた島が、銀の波濤に青灰色の影となり薄らいでゆくにつれ強まるその思いは、せめて私にもゆるされるだろう。

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コメント(8件)

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日本も自然がいっぱいあっていいわね。だいぶ前に別府でとてもしずかに年越した覚えがあるのだけどね。
Masu
2012/04/25 06:08
MASUちゃん、こんにちは。
えー、隠岐で年越ししたの!?それは貴重な体験ですね。
日本国内の旅行は楽しいねぇ。なにより食べ物が美味い!特に日本海の魚は絶品だぁ
カラビ
2012/04/25 09:28
隠岐の島でエーゲ海を思い出すなんて、凄いインスピレーション。
でも、この画像の海の色を見たら納得ですね。

最後にニコラさんの素敵な笑顔を拝見できて、私もカーラビンカさんの旅に同行したかのような、そんな幸せな気持ちになりました。
ありがとうございます。
真奈
2012/04/26 10:09
>真奈さん
隠岐の海とエーゲ海の水の色や景色はよく似たものがありましたよ。まさに神話的です。
ニコラさんは日本人以上にコミュニティへの思い入れがあり素晴らしいです。西ノ島はニュージーランドとも時空でつながっているんでしょうかね。
次回は真奈さんも是非一緒に隠岐へ行きましょう!
カラビ
2012/04/27 10:42
読み応えあるので、また、じっくり読ませていただきます。

ザ・バンドのメンバーはほとんどカナダ人だし。
アイルランド人のU2はアメリカをめぐり、R&B,ゴスペルとつながった。
よそ者が いったん己のフィルターを通して抽出された 極上の作品たち。
私は、カーラビンカさんの この旅行記を読みながら、私も今住んでるここで、よそ者気分で堂々と そして謙虚でいよう。って。改めて思い直しました。
支離滅裂なコメントでごめんんさい。
感じちゃったの。よそ者の憂いを。。。誤解してたらごめんね。
ニコラさんの笑顔が素晴らしい。
にしゆみ
2012/04/28 11:43
>にしゆみさん
コメントありがとう御座います。うん、言わんとしてることわかりますよ。「よそ者気分で堂々と謙虚で」っていうのね。生まれ育った土地でも、離れて時間が経てば「よそ者」になってしまうものでしょう。でも「よそ者」の目から見る新鮮な発見てあると思うんです。そういう目線で私はこの記事を書いたつもりだし、それで何か感じてもらうものがあれば、こんなに嬉しいことはありません。
カラビ
2012/04/28 14:08
嬉しく思ってくれて、こっちが嬉しいですよ〜。私もよそ者歴ケイゾク現在進行中?(変な単語)なので、この記事にはグット来ちゃったんです。今 居る場を大事にするね。
にしゆみ
2012/05/01 12:28
>にしゆみさん
メタフィジカルなレベルでは「今居る場所」がすべてにつながっているんだと思います。きっと
カラビ
2012/05/02 10:04

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