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zoom RSS Traum Frau - 夢の彼女

<<   作成日時 : 2015/06/06 10:38   >>

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 「私は間違った体に生まれて来てしまったの」
 ヴェネチアンブロンドの髪とうっすら切れ長の目をした若いスイス人は、ココと呼ばれていた。ドキュメンタリー映画"Traum Frau"の中で、ココは何度も泣いた。なんて綺麗な子だろうと思った。壊れやすい薄幸そうな感じが、独特の華となっていた。映画の最後で、ココは性転換手術を受けた。
「これで私のあるべき体になれた」
 ボーイフレンドもできて、彼女は嬉しそうにしていた。

 ベルリン、クロイツベルクのBarでココに会ったのは、あの映画を見てからどれくらい経っていただろう。甘いヴェネチアンブロンドはスキンヘッドになっていた。黒いレザージャケットと黒いショートパンツをはいていた。酔っていたのか、或いはドラッグか、足元がおぼつかない様子だった。
「ねぇ、名前聞いてもいい?」
 見知らぬ東洋人に話しかけられ、彼女の表情は固まっていた。
「あなた、ココじゃない?」
「そうよ」
「ああ、やっぱり!私、あなたをテレビで見たわよ」
 やさしい切れ長の目がふわっと綻んだ。ベルリンにはつい最近来たばかりで、Tunten Haus(オネエの家という意味)の友達のところにいると言っていた。ボーイフレンドと一緒にいるのか聞くと、あれとはもう別れた、と投げやりな風に苦笑した。
"Du bist immer noch so schön (あなたは今もとっても綺麗ね)"
 私がそう言うと、彼女は満面に笑みをたたえた。


 ココのことを思い出した。"Traum Frau"をもう一度見たいと思ってネットで探していたら、彼女が亡くなっていたことを知った。1998年、スイスのトゥーン市のアパートで首吊り自殺だった。
 性転換手術の後、彼女は酷い骨粗鬆症を患い、苦しんでいたらしい。あの映画で一躍名が知られた後、晩年はSMプレイや売春サロンで働くようになり、最後は闘病の中、精神も病んでいたという。
「あの子は、手術で男性から離れました。でも女性になれたわけではなかったのです」
 母親がインタビューでそう話していた。ベルリンで会った時の、半ば自暴自棄な姿が思い出された。あの時、いや、初めて映画で見た時、彼女は長く生きない類の人である予感がしていた。

 ココは自分の生まれて来た肉体から離れたかった。でも本当にそれから離れたのは、この世からも離れた時だった。彼女にとって人生は、肉体の苦しさばかりだったのだろうか。
 
"Du bist immer noch so schön" ヴェネチアンブロンドの髪の、ひとりで泣いてたあなたへ。 
 








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