伽羅創記

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zoom RSS ずっと言いたかったことは

<<   作成日時 : 2017/07/13 19:39   >>

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  梅雨の晴れ間の陽に照らされた垣根の紫陽花と凌霄花の落花の色合いは、昔も今も変わらない。

 ニューヨークのイースト・ビレッジに住んでいた時だったが、子供の頃、ある友達に対して自分がやった行為を思い出し、ひどく慙愧の念にかられたことがあった。
 その子とは、小学校で一度同じクラスになった。彼女はいわゆる「ハズレ者」で、私も他の子とはかなり毛色が違う口だった。お互い、どこか似た者同士のにおいを感じたのだろう、私達は時々一緒に遊んだ。しかし一方で、彼女と同類となることに抵抗感もあった。そんな時、私は他の子達と彼女の悪口を言ったりしていた。
 ある日、私はその子の家で遊んでいた。しばらくして、クラスでわりと人気のあった女の子が彼女の家にいる私に電話をしてきた。
「今日、もしよかったらうちに来て遊ばないかと思って」
 私はそれを彼女に言い、そういう変な電話があったことを、彼女は家にいた父親に話した。
「そういうことは、大人の世界でもあることだよ。お前は今日は遠慮して、二人で遊んでもらいなさい」
 彼女のお父さんは、私に電話をしてきた子の家へ行くよう勧めた。私は彼女の家を後にした。

 あの時、どうして私は電話で言わなかったのか。
「今日はHさんと先に遊ぶ約束してたから、私はここにいるよ」と。私はその子との約束を反故し、人気のある子を選んだのだ。そのことを思い出すと、後々まで自己嫌悪がぬぐえなかった。


 中学生の時、テニス部で私はダブルスのペアになる子がいなかった。何の思慮もなく誰にでも言いたいことを言っていた私は、とかくまわりから煙たがられていた。
 ある時、その子がテニス部に入部すると言ってきた。ペアが必要だった私は、彼女と組むことにした。ハズレ者の二人は、コートでも居心地が悪かった。2年の途中から入部した彼女は、1年生扱いで球拾いをしなければならなかった。端で見ていて、屈辱的に見えた。
 ある時、部員の一人がペアだった相手が休部したので、私に組まないかと言ってきた。その部員と組めば、1年生扱いの彼女と組むより、コートを使えることはずっと多かった。上達しかけていた私は彼女に背を向け、その部員と組むことにしたと彼女に告げた。
 結局、私はまわりと上手く行かず、3年生になる前に退部した。それと続くようにして、彼女も退部した。
 
 ハチャメチャやってクラスの女子グループと口論になり、みんなから総スカンを喰らったこともある。かなりオチ込んでいた時に、他のクラスからやさしい言葉をかけてくれた子が幾人がいた。その中の一人が、その子だった。
 彼女の子供時代は、私など比べものにならないほどいろいろな困難があった。そんな時、私は彼女を思い、元気づけるようなことはついぞしなかった。それどころか、悪く言うことすらあった。思えば、私は自分が孤立していた時だけ彼女と友達つき合いをしていたのだ。

 記憶はどうにもやり切れなかった。今更勝手だけど、彼女に謝りたかった。思いつく限り彼女の居所を探そうとしたが、見つけることはできなかった。最後に会ってから、20年が経っていた。

 去年帰国し、思いがけないところでその子の連絡先がわかった。
「連絡してくれてありがとう。ホント、ありがとう!」 とびきり明るい声に、私はずっと伝えたかったことを言えずにいた。近々会う約束をしたまま、時間が経った。
 先日、とうとう彼女と会えた。県道沿いの喫茶店、1杯目の紅茶を飲み終え、出がらしの薄い2杯目に口をつけて、私はせわしなく額や頬を触りながらようやく話しはじめた。視線を白いテーブルに落としたまま。
「遠くで、そんな風に思ってたんだ。ありがとうね」
 つまった声だけを聞いた。正直、余すことなく気持ちを言えたかといえば、そうは言い切れない。しかし、それ以上言葉を試みても、音信途絶えて30年以上過ぎた時の前では無力に感じられた。


 彼女があるところで紹介していた曲を聞きながら、かつて遊びに行った家があった辺り、色も丈も不揃いの草が重なる空き地、停止線の剥げたアスファルトの道で、誰よりも強く、決して逸らすことなく前を見つめて生きていた友達を、後からついてくる私の影が探していた。



" to U "

























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