テーマ:文学

或る田舎町、今

  およそ、吉田健一ほど洒脱な随筆を書く人もいないだろう。父吉田茂の転勤にともなって、少年時代にヨーロッパの各地で過ごし、英語仏語に堪能で、一方、漢文や日本の古典は誰よりも造詣が深い。教養とはなにかと云うなら、吉田健一が日常で体現していたものがそれだ。  氏が私の生まれた町を訪問したことがあったことは、あるところで読んで知って…
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耽読 「雪国」

  恥ずかしながら、はじめて川端康成の「雪国」を読んだ。八月に雪景色を思い浮かべるのは、寒さの実感が押し迫ってこない分、寒がりにはいいかな。しかしぃ... このようなエロい話だとは思わなかった。温泉芸者と文士くずれの湿っぽいストーリーなんだろうと勝手に想像して、読む気にならなかったのだ。だいたい、日本人初のノーベル文学賞受賞作品で大…
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日本語という奇蹟

  今年のニューヨークは、街路樹(小梨ともリンゴ科ともいわれる)の花が咲いたのが例年よりやや遅かった。蕾がつきはじめた頃、気温の下がる日が続いたせいだろうか。この白い花がいっせいに咲くと、春だなぁって嬉しくなる。  小学校5年生の国語教科書に、春から夏へ向かう季節の言葉が紹介されていた。花冷え、春がすみ、花ふぶき、新樹、風かお…
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The Story of Soul Brothers

  今日10月23日は旧暦九月九日、重陽(菊の節句)の佳日だ。重陽で思い出す話に、雨月物語の「菊花の約(ちぎり)」がある。 〔あらすじ〕  播磨の国、清貧に甘んじ学問に専心する丈部左門(はせべさもん)は、ある時、旅の途中で病に倒れている男を助けた。男は出雲松江の赤穴宗右衛門(あかなそうえもん)という武士であった。宗右衛門はじ…
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ホツマツタエ

  友人のお母様から薦められ「ホツマ物語」という本を読んだ。『古事記』、『日本書紀』以前の伝承を持つとする説もある『ホツマツタエ(秀真政伝)』を、わかりやすく物語風に書いたものである。お恥ずかしい話、私は『古事記』、『日本書紀』とも部分的にしか読んだことがなく、そんなだから「ホツマツタエ」という言葉もはじめて聞いた。  ホツマとは…
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白昼の翳り

  物書きには大きく分けると、ストーリー展開の面白さで読ませるタイプと描写力で惹き込むタイプがある。勿論、ストーリーの面白さも描写力も両方それ相応に必要だし、とちらも抜群に兼ねそろえている作家もいる。しかしあえてざっと見渡すと、ストーリーの面白さで読ませる方が多く、描写力で惹き込むタイプは少ない。(まぁここのところは、読み手個人の好…
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出雲から東京、ヘルン氏

  羽田へ向かう飛行機が雨に濡れた滑走路に走り出た時、空の旅特有のセンチメントに包まれ、私はこの三日間に出雲で出会った様々な光景を、窓についた水滴を数えるように一つ一つ思い出していた。  飛行機は離陸すると、ものの3分もしないうちに厚い雲をぬけた。三日ぶりに太陽を見た。あまりの眩しさに顔を背け窓から後ろを振り返ると、さっきまで私が…
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「ジプシー歌集-フェデリコ ガルシア ロルカ」から

 若い美しいジプシーの写真を見つけた。ひき込まれるほど妖しげな目がよかった。ロルカの「ジプシー歌集」の一節が浮かんだ。  緑色わたしの好きな緑色            Verde que te quiero verde.  緑の風、緑の枝よ                Verde viento. Verdes ramas.…
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好きな一首-紀 貫之

  人はいさ 心もしらず ふるさとは    花ぞむかしの 香ににほひける  紀 貫之作。百人一首の中で一番好きな歌。三十六歌仙の中で、紀 貫之は一番好きな歌人。  「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり」と、女性のふりをして仮名で土佐日記を書く実験的なところなぞ、なんとなく辻 邦生に似たものを感じてしまったり…
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辻 邦生 誕生日

 九月二十四日は、辻 邦生の誕生日だった。亡くなってから、七年が経つ。辻文学を最も読んだのは、二十代後半だった。当時、私はベルリンに住んでいた。一時期、救いを求めるような気持ちで読んでいた。  最初の出会いは「廻廊にて」だった。書いたのは女性だと思った。邦生という名前も女性のものともとれたが、なにより文体、感性が、私のイメージする限り…
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秋晴れの上空で

 ちょうど九月の今ぐらいではなかったか。五年ぶりに日本へ帰る飛行機が、ようやく北海道上空にさしかかっていた。雲一つない見事な秋晴れだった。太平洋側を飛んでいたが、日本海まではっきりと見えた。こんなほっそりした島国が、激動の国際政治の中でしのぎを削っているのかと思うと、なんだか痛々しいような気持ちが起こった。“日出処”の国は万遍なく濃い緑…
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